雑誌ARTnews誌が選ぶ「西暦2112年に有名になってそうな日本人アーティスト」

正確に言うと、雑誌ARTnews誌が、「西暦2112年に有名になってそうなアーティスト」を33人の批評家・専門家にあげてもらい、それを記事にした。で、それを俺が集計して、複数の専門家が名前を挙げた芸術家をピックアップ。それをここで紹介。っていうこと。「ARTnews誌が日本人アーティストを選んだ」わけではない。

なんで西暦2112年なんていう、中途半端な年になっているかと言うと、この雑誌が今年で創刊105年なので、それを記念して、いまから105年後を予想する、という企画だから。

  • ARTnews | November 2007 "Famous in 2112?" Sarah H. Bayliss and Ann Landi - Experts predict which artists the art world will be looking at 105 years from now

例えば、Richard Floodという、New Museum of Contemporary Artのチーフ・キュレーターをやってる人は Andy Warholと Martha Rosler, それとSigmar Polke をあげた。理由としては

Warhol, because his work is like reportage on a period. Martha Rosler also has a lot to tell the future about today. She has looked hard at the times we live in and, like Warhol, examined the nature of information.

Sigmar Polke may be the last of the history painters. Whether he's painting about the weather or celestial navigation or the French Revolution, he's communicating about the moments and materials that reflect the possibility of the times. These artists also give appropriation its due, and appropriation is probably the defining form of contemporary art.

まず、Walhol。彼の作品はひとつの時代を記録したルポルタージュのようなものなので。Martha Roslerもこんにちについて多くのことを語っている。Walholのように情報のありようを考え、我々が生きる時代について真剣に観察していた。

Sigmar Polkeは歴史に残る最後の画家(訳注: ってことかなあ?) ……(中略)……これらのアーティストは現代アートとはどのようなものなのか、それを定義する役割を果たした。(訳注: ……って意味かな? ちょっと自信なし)

……ということらしい。ちなみにMartha Roslerさんを挙げたのは33人中、このかただけ。このRichard Floodさんがチーフ・キュレーターを務めるNew Museum of Contemporary Artってのは、これですかね?

ま、それはともかく、こんな感じで33人の専門家が、125人の芸術家を紹介している。

それを集計するとこんなふうになる。まず、トップの8人。

Andy Warhol (6人の専門家が紹介)

ま、Warholはべつにいいと思いますが、

David Hammons デイヴィッド・ハモンズ (同じく6人)

東京都現代美術館カルティエ現代美術財団コレクション展で作品が展示されていたらしい。知らなかった。(見に行ったのに)

Richard Serra リチャード・セラ (5人)

鉄や鉛の巨大なインスタレーション的作品で有名な、彫刻の定義を深化させ拡張させた恐るべき彫刻家と評されるリチャード・セラの作品や経歴に関する最低限の客観的情報を得るためには、Wikipediaの項目Richard Serraに目を通すのがよい。

http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20070602/1180789889
Bruce Nauman ブルース・ナウマン (5人)
Robert Gober ロバート・ゴバー (4)
Louise Bourgeois ルイーズ・ブルジョア (4)

六本木ヒルズのクモみたいなやつを作った人

Gerhard Richter ゲルハルト・リヒター (4)
Cindy Sherman シンディ・シャーマン (4)

以上が、4人以上の専門家が共通して名前を挙げたアーティスト。

で、3人が挙げたのが以下の6人

Xu Bing 徐冰

こないだ見に行った旧坂本小学校の展覧会で展示されてた。

Sigmar Polke ジグマー・ポルケ

mixiの現代美術コミュニティのアイコンになってる人

Hélio Oiticica エリオ・オイティシィカ
Ellsworth Kelly エルズワース・ケリー

……と、もうひとり。それがなんと

Yoko Ono オノ・ヨーコ

……なのである。ほかにも、2人以下の専門家が名前をあげた日本人アーティストとして、

……がいる。残りのデータはこちら (シート2が集計結果。シート1が元データ)

で、これらのアーティストをざっとみると、この一覧には、特徴があることが(わかる人には)わかるはず。

それは

Jeff Koons, whose collectors include billionaire Eli Broad, and Damien Hirst, whose shark is owned by hedge-fund manager Steven Cohen, failed to draw a vote from museum curators nominating artists who'll be famous in 105 years' time for U.S. magazine ARTnews.

……Some nominations, such as Ono, widow of Beatle John Lennon, surprised her, she said. Ono isn't currently prominent in the art world.

Jeff KoonsやDamien Hirstが入っていない。……Onoはそれほど評価されているわけではない(のに多くの人が名前を挙げていた)ので驚いた (要約)

Bloomberg - Are you a robot?

ということで、これはあくまでARTnews誌が選んだ批評家(選んだといっても、単に顔見知りだからとか、手があいてるから、とかそういうのも含まれているかもしれない)が選んだアーティスト、というだけなので偏りがあるだろうし、統計的な信頼性もないだろう。

ただ、33人に聞いてDamien Hirstの名前を挙げた人がひとりもいなかった、っていうのも面白い。(今120億でも、105年後はこんな感じの扱いになってしまうのかも)

ちょっと話が変わるんだけど、先日「オタクな人も知って損なし!日本の現代美術家10+10人」ってエントリーを読んだのだけれど、ここで選ばれている20人っていうのは、どういう基準で選ばれたんだろうか。

どのかたも有名な方ばかりだけど、もとをたどると、「日本で有名な美術雑誌によく寄稿している評論家が評価していた」とか「どこかの画商さん(茶道具とかを扱ってる古美術商の二代目とか)が展覧会を開いたのがきっかけで」とか、なんかそういう類のきっかけがあって、そっからバーっと有名になっていったのではないだろうか。

105年前、活躍していた芸術家の中で、105年後の今、知名度が高い人と低い人がいるのと同じように、今活躍している芸術家の中にも、この先105年の間に忘れ去られる人と、逆に評価が高まる人がいるはずだ。その違いは何から生まれるのだろうか。

偉い評論家やキュレーターの頭の中にある「今後有名になりそうなアーティスト」もちょっとは影響があるかもしれない。(雑誌の記事や、展覧会でとりあげられる確率に影響しているかもしれない) そう考えると、この集計結果も少しは意味のあるものだったりする……のかな?

それにしてもオノ・ヨーコとはねー。意外。何年か前に東京都現代美術館の展示で、電話が置いてあって、きがむいたらオノ・ヨーコがそこに電話をかけてくる、っていう作品を見たことがあるけど、それまではオノ・ヨーコがそういう美術館で展示するような作品作ってることすら知らなかったし。