Better Living and Other Projects展・カナダ大使館・高円宮記念ギャラリー

カナダで活躍中の日本人アーティスト、秋元しのぶの個展。

会場は青山、カナダ大使館内のギャラリー。月曜から金曜までしか開いてなくて行きにくいのがちょっと残念。(月曜休みで土曜オープンだといいんだけど)

展示されているのは、とってもかわいらしい作品。ウサギと鳥と猫がショッピングにお出かけ。おしゃれなお店で食器、鉢植えなどを品定めしてる様子を撮影した写真。

会場の様子は こんな感じ (←このページはShinobu Akimotoさんの公式サイトのトップページからは、「a. visual artist」→「CV」→「exhibitions and off-site projects」→ 2006「Shinobu Akimoto - New Projects」をクリックしていくと見ることができる)

手前の立体作品は、写真に写っている食器、鉢植えなど。ミニチュアサイズでとてもかわいらしい。

ほかにも、ワンちゃんの面白グッズの作品や、フリーペーパーに掲載されたウサギ愛護団体の三行広告 (The House Rabbit Society Project Series) など。(←これには「あなたのウサギは幸せですか? 地下室やガレージにカゴを置いたりしてませんか?」 と書いてある。こういうのがこんなふうにたくさん展示されている)

かわいらしい癒し系アート……かと思いきや、入り口の解説文にはこんなふうに書いてある。

……特に最近の私のプロジェクトの多くは、美術制作という概念が、私たちの日常生活における他のいろいろな「創造」活動とどういう折り合いで存在するかという問い、もしくはただ単に私が「どうやって生活するか」と「どうやってアートを作るか」ということの共生的な関係のことばかり考えていることを反映しているようです。

(……中略) その結果私のプロジェクトはしばしば、アート、またはアーチストというアイデンティティーを認証するために良く使われる「創造性」とか「芸術的権威」といった概念に対しての疑問を誘うことになります……

結構深い。猫ちゃんのお買い物、面白ワンちゃんグッズ(実際に販売されているもののコピー)、ウサギ愛護団体。確かに、ぞれぞれの作品を構成する要素に「創造性」があるのか? ……と言われるとよくわからない感じもしてくる。

……この問いは表面的には、マルセル・デュシャンやヨゼフ・ボイス、またはアラン・カプローといった数々の20世紀のアーチストによってすでに何度も追及された、「『芸術的(もしくは芸術家の)権威』という概念は作り物に過ぎない」というアバンギャルドの批評に似ているかもしれません。

けれども私は、ライフスタイルというものが個人の美的表現として浸透し、また物を創造するためのサービスやテクノロジーに簡単にアクセスできることによって、芸術的(アーティスティック)とか、創造的(クリエーティブ)というコンセプトが今までになく民主的になったように見える、今現在の、この時代と環境の中で、同じ問いを再構成することに意味があると感じています。

「ライフスタイルが個人の美的表現」……昔、クイズダービーっていう、テレビのクイズ番組があって、それに解答者として出演していた学習院大学篠沢教授が、トンチンカンな答えばかりして全問間違えると「美しい」、まぐれで一問だけ正解してしまうと「美しくない」と言っていたが、そういうやつのことだろうか?

あと、テクノロジーが「芸術的、創造的であること」に与えた影響ってのも興味深い。例えば単なる手芸のようなもの(最近では「オカンアート」と呼ばれるようなもの)は昔から存在したと思うけど、そういうのを、ある種の「民主的に選ばれた権威」のようなものに高める手助けをしているのがテレビやインターネットだったりするのだろうか。

……私の美術制作活動はある意味で、私自身の「アーチスト」というアイデンティティーに対する自己脅迫が存在する現代の状況への降伏であり、また同時に客観的な観察でもあると思っています。

やはり現代のプロの「アーティスト」は、とても厳しい状況に置かれているのだろうか。(俺のような気楽な見物人の立場からすると)難しく考えすぎているような気もするけど。

……こういった解説を読んでから改めて作品を見ると、また違った感じで楽しむことができる。なんというのかな、トゥルーマン・ショーっていう映画があるけど、あんな感じで「外側から人間社会を見ようとする」視線が感じられ、興味深い。

3月20日まで。17日(月曜)と、18日(火曜)は午後三時で閉館らしいので注意。

このページ↓にある超長いコメントも興味深い。

秋元しのぶ 展
会場: カナダ大使館B2ギャラリー
スケジュール: 2008年01月18日 〜 2008年03月20日
住所: 〒107-8503 東京都港区赤坂7-3-38
電話: 03-5412-6200

(ちなみに秋元しのぶの日本での個展はこれが初めて。グループ展では2004年に東京で展示があったらしい。美術手帖の2004年6月号 (特集が「フォトグラフィからデジグラフィへ」のやつ) にレビューが載っている)