あなたも、あのブルックリン美術館のキュレーターになれる?? 『Click』展

……そして、とうとう一般の人も本物のキュレーター役がウェブでできる運びとなった。あのブルックリン美術館が一般の人のネット投稿作品の評価をベースに『Click』と銘打つ写真展を企画中なのだ。3月いっぱい公募で集まったブルックリンの応募作品の公開投票をウェブで行っている。投票の締め切りは5月23日。本物のキュレーターを尻目に、最多得票作品は今夏開催のリアルの写真展に出品となる。

ブルックリン美術館、大衆に写真選びのキュレーター役を丸投げ | TechCrunch Japan

早速、試してみた。

以下のページを開いて、メニューの 「REGISTER」 を選んでまず登録。確認メールが送られてくるので、そのメールのリンクをクリックして次に進む。

まず、自分の知識レベルと、現在地(居住地)を聞かれる。「合衆国外」という選択肢もあるので、アメリカに住んでなくてもいいようだ。

知識レベルの選択はこんなふうになっている。

  • NONE - artについてはよくしらない。けど、たまに美術館やギャラリーに行きます
  • SOME - 正式な教育は受けていませんが、いくらかの一般的知識があり、時々美術館やギャラリーに行きます (俺はこれを選んだ)
  • MORE THAN A LITTLE - artや、その歴史について授業を受けたことがある、もしくは独学で勉強したことがある。しばしば美術館やギャラリーを訪ねる
  • ABOVE AVERAGE (平均以上) - いくつかの授業をうけたことがある。しょっちゅう美術館 / ギャラリーに行っている
  • EXPERT - この分野について多くの知識をもつ。art関係の専門家、もしくは学位がある

適切なのを選択して「NEXT」をクリック。

次。投票の仕方の説明画面。

作品評価にあたっては

  • テーマがどれくらい良く表現されているか、について考えること。テーマは「The Changing Faces of Brooklyn」 (ブルックリンの変化する姿、といった感じか)
  • 技法や美しさの観点から見て、この作品が特に秀でているかどうか

……を良く考えて、右の図のつまみを動かして「SUBMIT」ボタンを押す、と。つまみが一番上だと、もっとも印象的だよ、ということ。

投票画面はこんな風になっている。

写真は、ぼやかしてあります。(別にぼやかさなくてもいいような気もするんだけど、やってみてのお楽しみということで)

写真の説明文が下のほうに出ている。写真を応募した人の名前は表示されない。右のつまみを選んで、「SUBMIT」ボタンを押すと、次のがでてくる。と。

投票締め切りは(現地の日付で)5月23日

美術館の人は、どれくらい投票されてるか熱心に監視していて、ピーク時に一分間(平均で?)51.3投票あったと喜んでいるようだ。結構人気らしい。

しかし、これはなかなか微妙。

まず、作品のテーマが決まっている。「Changing Faces of Brooklyn」。

そう言われても、そもそも俺はブルックリンのことなど全くといっていいほど何も知らないので、どの写真がテーマに沿っているのかもわからない。

ただ、この↑写真の説明文を見ると、面白いことが書いてあって、この写真を投稿した人はどうやら日本人らしく、子供のころ日本で映画を見てどうのこうの、と自分の話が書いてあったりする。この写真は「Changing Faces of Brooklyn」をテーマにした作品だろうか? (作品自体はとてもすてきだったので、3/4ぐらいで投票した)

よく考えると、変化といっても、写真に撮るのは撮った瞬間だけなので「変化」を表現するのはいずれにしても難しいような気もする。

で、作品を何枚か見てるうちに、さらにモヤモヤしてくる。人気投票で上位に入った作品だけを集めて展示したら、いかにも「人気投票で選びました」といった感じのばらばらの雰囲気の作品が集まるんじゃないだろうか。

そもそもこういう人気投票をやって、それに投票することを「キュレーター役」といってよいのか?

……という疑問が、はてなブックマークのコメントにあった。

id:kachifu 投票で作品を選ぶというのはキュレーションとは別。結局これを発案した人のキュレーションでしかないとおもう

はてなブックマーク - TechCrunch Japanese アーカイブ » ブルックリン美術館、大衆に写真選びのキュレーター役を丸投げ

そもそもキュレーターとはなんであろうか。

ためしに辞書を引いてみたら、面白いことがわかった。ググってみたら、俺がやったのと同じことを(より精密に)なさっていたかたがいたので、以下に引用。

ついで、「リーダーズ英和辞典」でcurateも調べてみる……

……再び意外だったのは、curateは動詞ではなく、……名詞だということだ。

(2002.5.19 Sun. キュレートする?)

http://www.lares.dti.ne.jp/~ttakagi/diary/diary/0205.htm#20020519

アムロアムラーのように、キュレート→キュレーターという関係が成り立つわけではない。(辞書的には)

色々調べてみたら、こんなのを見つけた。

From: "Robert A. Baron"
Newsgroups: bit.listserv.museum-l
Sent: Wednesday, January 01, 1997 12:00 AM
Subject: Re: Curator Help


At 03:47 PM 1/20/97 +0200, Jo Zias wrote:

>According to Websters 1928 a curator is a person responsible for the care
>of a minor or a lunatic- as we work in museums, this should give us
>something to think about :-)

> 1928年の辞書にはcuratorというのは「未成年・精神異常者などの保護者」だと書いてある。


Here is what the Electronic American Heritage Dictionary says. See
especially the usage note. (I have removed the unreproducible
pronunciation diacritical characters.)


cu·rate(1) (kyoor'it) n. 1. A cleric, especially one who has charge of a
parish. 2. A cleric who assists a rector or vicar. [Middle English curat,
from Medieval Latin curatus, from Late Latin cura, spiritual charge, from
Latin, care. See CURE.]

教区の責任者を務める聖職者。牧師の補佐


cu·rate(2) (kyoor'at) tr.v. Usage Problem. To act as curator of; organize
and oversee. [Back-formation from curator.]

キュレーターとして振舞うこと

USAGE NOTE: The verb curate is widely used in art circles to mean "arrange
or supervise (an exhibition of art)," as in She has curated two exhibitions
for the Modern Museum. This usage is rejected by 81 percent of the Usage Panel.

curate を動詞として、「(展覧会の)手配・監督をする」という意味で使うのは、アート関係の人々の間では一般的だが「the Usage Panel」の81%はこの用法を認めていない。

Google Groups

……とある。the Usage Panelというのがなんなのかよくわからないが、辞書編纂に関与する会議ではないかと思う。要するに一般的な用法ではないらしい。(前述のTechCrunchの原文では、ふつうに動詞として使っているけど)

ただし、この発言は1997年のもので、辞書はそれより古いものである。

ま、動詞の問題はともかくとして、curatorというのはもともと、「a person responsible for the care of a minor or a lunatic」(《未成年・精神異常者などの》 保護者) という意味があったらしい。

いずれにしても、要するに「投票するだけ」でキュレーターというのは、(展覧会の手配・監督をしているわけではないので) ちょっと誇大表現ではないかという感じはする。Wisdom of Crowdsを援用した「A Crowd-Curated Exhibition」って表現も面白いけど。(ちょっと季節外れな感じで)

6月27日からの展覧会はどんなふうになるんだろう。ちょっと気になる。